コラム
・書籍紹介

書籍紹介
あんぽん 孫正義伝
平成不況の本質――雇用と金融から考える
2012/01/31 Ueda

今月は、ジャンルの異なる2冊を紹介します。

あんぽん 孫正義伝
佐野眞一著(小学館)
あんぽん 孫正義伝(佐野眞一著)小学館 ISBN:9784093882316
ISBN:9784093882316
1冊目は、今年1月に出たノンフィクション作家佐野眞一によるソフトバンクグループの創業者である孫正義氏の評伝「あんぽん」です。孫氏は今から55年前の昭和32年、佐賀県鳥栖駅に隣接し、地番もない無番地とつけられた朝鮮部落に生まれ、豚の糞尿と、豚の餌の残飯、そして豚小屋の奥でこっそり作られる密造酒の強烈な臭いの中で育ちました。それが、世界長者番付に入るまでの成功をおさめ、「3.11」以降は、反原発の旗頭役的存在となっています。東日本大震災の被害者に100億円の義捐金をポンと寄付し、10億円のポケットマネーで自然エネルギー財団設立を表明するなど、政治と比べ水際立っています。

孫氏は、1990年9月に日本に帰化しましたが、帰化前の名前は、安本正義であり、中学時代、旧姓の安本をそのまま音読みして、「あんぽん」と言われることをひどく嫌っていた。それは、韓国風の発音が、自分の出自を隠して生きてきた孫の自尊心を深く傷つけたからだそうです。佐野氏が本書で書こうと思ったのは、孫正義という特異な経営者はなぜ生まれたのか。それを朝鮮半島につながる血のルーツまで遡って探ることだった、と書いています。面白い本です。

平成不況の本質
――雇用と金融から考える
大瀧雅之著(岩波書店1344)
平成不況の本質――雇用と金融から考える(大瀧雅之著)岩波書店1344 ISBN:9784004313441
ISBN:9784004313441
2冊目は、昨年12月に出た東大教授大瀧雅之氏の著書「平成不況の本質」です。失業率の悪化、労働生産性の停滞、消費の低迷。日本経済の不調の原因は、本当に「デフレ」なのか。理論経済学の立場から常識を疑い、長期不況の本質を探っています。経済成長至上主義からの脱却、社会資本の充実を訴えています。土木・建設業は製造業と並び雇用の創出能力が高く、多くの地方の基幹産業であるにもかかわらず、大都市圏の住民の数の暴力、政治のポピュリズムにより雇用喪失との二重苦に呻吟する地方経済の窮状を見過ごしていいのか、と訴えています。

個人がネットワークなしに生活できるという「反社会的」な経済構造の変化や議論が横行しているともいっています。また、現状はデフレではない。貨幣固有の価値を認めないナンセンスな貨幣数量説に依拠し、ハイパーインフレを呼び込みかねない「リフレ論」を批判してもいます。一読の価値はあります。

ページトップへ